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超音波診断法 - 皮膚腫瘍への応用 -
2009-03-08 UP! カテゴリー:診療だより
私は大学病院勤務中に超音波診断法(皮膚エコー)を研究テーマの一つにしていました。皮膚科は他の科と比べて検査が比較的少ないようです。超音波診断法の応用について思いつくままに述べると、循環器内科で心臓の機能評価、消化器内科・外科で肝硬変、胆石の確認、産婦人科で子宮、卵巣の形態評価、新生児の発育評価などなど。
皮膚科領域への超音波診断の応用はあるのか?
今回はそのことについて私の考えをまとめました。
皮膚科で超音波診断法を本格的に応用した皮膚科医として私が真っ先に思い浮かぶのが
静岡がんセンター皮膚科部長の清原祥夫先生です。清原先生とは現在も個人的に親しくさせていただいており皮膚外科学会などで皮膚エコーのアドバイスを頂戴しています。
また私は虎の門病院に修行中に皮膚科部長の大原國章先生より手取り足取り皮膚エコーのいろはを教えていただきました。今回、メディカルK社さんのご好意で超音波診断装置 LOGIQ BOOK XP Enhanced を使用する機会に恵まれました。私が大学を離れ開業した現在、東海地方で本格的に皮膚エコーを活用している先生はほとんどいないようです。個人クリニックでの症例ですがこのブログで症例を提示することにより東海地方の皮膚科医への問題提起になれば幸いです。
皮膚科への超音波診断の応用として最も適しているのは皮膚腫瘍だと思います。
具体的には以下の3つがポイントです。① 皮膚腫瘍の質的診断
② 皮膚腫瘍の局在の確認
③ 皮膚腫瘍と周囲組織との癒着の有無を確認具体的に3つの症例を提示します(いずれも皮ふ科SSクリニックでの症例です)。
これがLOGIQ BOOK XP Enhanced です。小型ですが高性能であり、皮膚科で使用するには十分な器械です。周波数は11MHzを基本としています。
皮膚腫瘍の代表、粉瘤のエコー像です。底面後方エコーの増強、両外側陰影が見られます。いづれも粉瘤(Cystを有する腫瘍)の特徴です。周囲組織との癒着はなさそうです。
摘出した検体標本です。Cystがくるりときれいに取れていますね。
後頭部の脂肪腫のエコー像です。後頭部の脂肪腫は粉瘤との鑑別がとても大切です。
粉瘤と比較して全体の形が扁平(紡錘形)です。内部エコーもやや high です。
摘出した脂肪腫です。なんだか愛らしい形をしていますね。
最後の症例はリンパ節です。下顎の粉瘤を疑われ同門の先生より紹介されました。
触診で粉瘤より硬く、局在が深い点などが腑に落ちずエコー検査を行いました。
黄色い矢印で囲まれているのがtumorです。咬筋の近くに局在しています。
内部エコーの中心が明るくドーナツ状の構造を示しています。これがポイントです!!
右下顎部に灰褐色の塊が露出しています。顔面神経下顎枝を避けながら摘出しました。
病理組織標本です。診断は reactive lymphatic hyperplasia です。
炎症によるリンパ節の腫脹です。下方にリンパ門に入る動脈と輸出リンパ管が見られます。この領域がエコーで high に見えた部分です。エコーと病理組織が対応していますね。
このように超音波診断法は皮膚腫瘍の診断、局在(深さ)の確認にとても有効なことが分かります。もちろん保険適応です。皮膚科医も積極的に皮膚エコーをするといいですよね。
拙著ですが私が2000年に発表した皮膚科領域への超音波診断の論文です。
虎の門病院皮膚科の大原國章先生、ご指導ありがとうございました。
参考文献
1) 皮膚科の臨床 第42巻 第8号:1135-1145, 2000
「皮膚皮下病変への超音波診断の応用」 柴田真一 金原出版
2) 皮膚科超音波診断マニュアル Monthly Book Derma. No. 79:18-27, 2003
「皮膚,皮下病変の超音波検査」 柴田真一 全日本病院出版会
3) 臨床放射線科 43 : 1375-1380, 1998 入江建夫
4) 体表エコーの実践 12-15, 1993 医療科学社
5) Radiology 183 : 215-220, 1992 Vassallo P
6) 臨床放射線科 43:1392-1395, 1998 白川崇子