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基底細胞癌
2013-11-14 UP! カテゴリー:皮膚腫瘍, 診療だより
私のブログは、多くのドクターも読まれているようなので、
若い皮膚科医へ、愛とメッセージをこめて。今年(平成25年)10月に経験した症例です。
この黒い結節は20年以上前からあるそうです。
少しずつ大きくなり、最近では出血するようになりました。テレビで皮膚癌の特集を見て、心配になり受診されました。
肉眼で見ても、結節の辺縁がデコボコとして気味が悪い。
この結節を覆う、白っぽい薄霞のような構造がくせものです。
whitish veil の所見です。悪性黒色腫や基底細胞癌でよく見られます。臨床とあわせて基底細胞癌を強く疑います。皮膚生検で確定診断しました。
基底細胞癌は顔面に生じることが多く、切除と再建の両方が大切です。
①癌なので完全に摘出します。
②顔なので、なるべく傷が目立たなくなるように工夫します。切除して、耳前からの全層植皮も一つの方法です。
しかし、植皮は植皮です。ツギハギと皮膚の質感の違いが生涯残ります。植皮は最終手段です。
皮弁で再建したほうが、創は目立たなくなります。OSS(Oblique sigmoid) flap、Limberg flap の二者を考えました。
眉間のしわを応用できそうなLimberg flap を選択しました。
点線は眉間のたてジワです。まずは完全切除です。黒ナイロン糸で検体の方向が分かる
ようにします。病理組織検査所見を見るときに役立ちます。生検での病理組織像を参考に、切除する深さを見極めます。
病理で癌細胞は脂肪組織まで達していません。筋膜上で切除すれば
十分に取り切れると考えました。手術前のプランから勝負は始まっています。
剪刃で切除するより、メスで組織の抵抗を指先に感じながら切除した
ほうが、正確に病変を切除することができます。筋膜が露出しています。切除中に指で検体の裏面を触り、硬く触れないことを確認することも
重要な操作です。検体の裏面です。黒く透けていません。問題なく取りきれていることが分かります。
癌組織が厚い脂肪組織でカバーされているからです。切除部を皮弁で再建します。吸収糸(5-0 PDS)で皮弁のポイントを
中縫いします。皮弁の色に気を使います。ドッグイヤーなどあまった部分を切りながら、6-0 黒ナイロンで
皮膚縫合します。話が変わりますが、
驚くくらい大きく病変を切除して、前額正中皮弁で再建する症例発表を学会で
見ることがあります。そうした症例は、皮膚科医が切除にも立ち会わず、最初から形成外科に丸投げ
するケースに多い気がします。基底細胞癌のタイプを正確に診断して、必要最小限に病変を切除、より侵襲が
少ない再建法を選択することが本道です。病理組織のプレパラート標本です。糸でマーキングすることで、切除断端が陽性
(取り残しあり)だった場合、陽性部分がどこかが分かります。病理組織検査の弱拡大像です。青紫に見える塊が基底細胞癌です。
水平方向、垂直方向とも完全に取り切れています。現在は皮弁のtrap door deformity を予防するため、レストン(スポンジ)で圧迫しています。
半年もすれば、創はかなり目立たなくなります。基本的には、皮膚癌治療は個人クリニックではなく大学病院レベルで行ったほうが
よいでしょう。ときどき、強いご指名を受けたり、知り合いの先生からご紹介があるので執刀している
というのが現実です。指名料いただきますよ(笑)。今回のブログは、これから皮膚外科を始める若き皮膚科医へのメッセージです。
大きなお世話かな(笑)。