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コンタクトレンズ性眼瞼下垂症
2015-02-08 UP! カテゴリー:眼瞼下垂, 診療だより
後天性眼瞼下垂症の中で最も多いのが、眼瞼挙筋腱膜性のものです。
ハードコンタクトレンズの長期装用によるコンタクトレンズ性眼瞼下垂症は
手術をしても後戻りし易く、なかなかやっかいです。ご存知のように、私は信州大学方式の眼瞼下垂手術をベースにしています。
後戻りを考えて、多少兎眼がでる程度に強く前転していました。京都府立医科大学眼科 W先生の手術を見学する機会に恵まれ、コンタクトレンズ性
眼瞼下垂症に対する術式を改善しました。W先生は若き眼形成外科の第一人者です。
W先生はハードコンタクトレンズの長期使用により、ミュラー筋が線維化することを
病理組織学的に検証されました。
Histopathology of Blepharoptosis Induced by Prolonged
Hard contact Lens Wear
Jpn J Ophthalmol 2013人は一日2万回ほどまばたきをします。
ハードコンタクトレンズはソフトコンタクトより厚みがあります。
ハードコンタクトレンズの厚みで、瞼が擦れることで、ミュラー筋が線維化 して
しまいます。私に信州大学方式を伝授してくださった北澤 健先生も論文でハードコンタクトレンズを
20年装用すると眼瞼下垂になるオッズ比が20倍になると報告されています。20倍! 驚きです。
ここで問題です。
コンタクトレンズ性眼瞼下垂症の本態がミュラー筋の線維化ならば、ミュラー筋そのものを
短縮(挙筋短縮術 levator resection)しないと改善しないのでは?そのことをW先生に質問しました。
「ミュラー筋が線維化することによって、その上にくっついている挙筋腱膜もつられて
動きが悪くなっているのです。挙筋短縮術でなくても、挙筋腱膜をミュラー筋から
剥がせば(挙筋前転術)、挙筋腱膜は本来の動きが戻り、眼瞼下垂は改善されます。」このようなことは成書には書かれていません。
眼形成外科の第一線の臨床医が、机上の空論ではなく現場から体験したリアルな実感です。私のコンタクトレンズ性眼瞼下垂に対するアプローチです。
36歳の女性です。左眼に下垂が出現してきました。
今までは、下横走靭帯、lateral horn を切開して、挙筋腱膜の前転がスムーズになった状態で
挙筋腱膜を瞼板固定していました。それがコンタクトレンズ性眼瞼下垂における後戻り現象の原因だったかもしれません。
信州大学方式で挙筋腱膜を前転した後に、挙筋腱膜を瞼板から剥がします。
そして、挙筋腱膜をミュラー筋から剥がします。
ミュラー筋の同定には横走する辺縁動脈弓が目印になります。挙筋腱膜を線維化したミュラー筋からフリーな状態にすることが重要です。
ハードコンタクト性眼瞼下垂症はなかなかやっかいです。
病態の本質を考え、理にかなった術式を行えば、かなり改善します。
Key word「ハードコンタクト性眼瞼下垂症、挙筋腱膜、ミュラー筋」