- Archive
- 登場から進化を続ける、PRP療法について
-
PRP
2019.12.27
数多くの美容クリニックが導入しているPRP(多血小板血漿)療法。美容医療の分野では、2008年に川添剛医学博士によって日本形成外科学会基礎学術集会をはじめとした多数の学会で発表され、全国に認知されるようになりました。2014年11月に施行された再生医療等の安全性確保等に関する法律では規制の対象となり、国の認可を得ないと行えない「再生医療」のひとつになっています。
日本にPRPが広まって以来、さまざまな治療に用いられるようになりました。それに伴う多くの基礎研究の過程で、PRPの製剤は少しずつ進化を遂げています。
今回は、このPRP療法の種類について詳しく解説します。
PRP療法とは?
PRP療法は、自分の血液中にある多血小板血漿(PRP=Platelet Rich Plasma)を利用した治療のことです。採血した血液を遠心分離器で精製し、集まった血小板を患部に注入します。再生医療の一種ですが、培養は行わず、採血してすぐに注入できる手軽さが人気です。
濃縮した血小板には組繊を再生させるためのさまざまな成長因子が含まれており、注入された部位で細胞をはじめ組織そのものを活性化して、衰えた組織の修復や血管の新生、体を形作るうえで重要なコラーゲンの生成を促します。
自然治癒力を利用した治療法であり、美容医療分野ではシミやしわなどの加齢部位の治療などに、整形外科分野では肘や筋肉の損傷部位の治療などに、歯科口腔外科分野ではインプラント埋入前の骨生成を促す治療などに、それぞれ利用されています。
PRP療法の優位性
当クリニックをはじめとした美容皮膚科・美容外科などでは、肌のエイジングケアや育毛治療にPRPは利用されています。
他の美容治療と比べて、PRP治療が優位性を発揮するのは「ちりめんジワ」です。
特に下眼瞼(目の下部分)周囲のちりめんジワや、ほうれい線周りのちりめんジワは、ヒアルロン酸注入といった“シワ部分を薬剤で埋める治療”では解消しません。PRPの特性として、肌内部で血小板に含まれる成長因子が細胞などの組織そのものを活性化するため、肌の線維芽細胞が増生して細かなシワを浅くする、自然な回復が期待できます。
同じように、PRP登場以前は治療が難しかった「首の横ジワ」や「手の甲のシワ」なども、違和感なく自然に改善を図ることができます。
PRPは育毛治療にも応用されています。
女性に多いとされる、頭皮全体の髪の毛の密度が薄くなる「びまん性脱毛症」は、それまで主流であった男性用の育毛剤や、脂肪幹細胞から抽出した成長因子を注入するHARG療法ではあまり効果が上げられませんでした。
PRPを直接頭皮に注入することで、血小板に含まれるサイトカインや成長因子が、組織を活性化して毛母細胞の生成を促進し、休止期にある毛を復活させて発毛をサポートします。これまでに、世界中で多くの研究者からPRP育毛治療の有効性が報告されています。
PRP療法の種類
歯科口腔外科領域では1998年以降から、美容医療領域では2007年頃から行われてきたPRP療法は、現在まで改良をくり返しながら進化を続けています。
登場から現在までのPRPの種類について解説します。
リジェンACR療法
1998年にRobrtMarxが口腔外科の顎骨再建治療で、骨再生の増大目的で使用したリジェンACR療法が、PRP療法のはじまりとされています。リジェンACRは血小板の濃縮率が最大でも4倍程度で、血小板・白血球・赤血球に分離する精度が低く、ダウンタイムが長い・内出血しやすいといったデメリットがありました。
W-PRP(セルリバイブ)
第2世代として登場したW-PRP(セルリバイブ)は、日本で2008年に川添剛医学博士によって、多数の学会で発表されました※。
リジェンACR療法に比べて、血小板の濃縮率は7~10倍程度で、浅いしわだけでなく、目や口周辺のちりめんジワも治療が可能になり、飛躍的に効果が高まりました。アメリカのFDA(米国食品医薬品局)とヨーロッパ医療CEマークをともに取得した血小板精製キットも登場し、安全性にも配慮されています。血小板にさらに白血球が含まれているため、ダウンタイムも1週間程度と短いのが特徴です。
※プロシーディング「除皺を目的とした自己白血球含有多血小板血漿(autologous W-PRP)注入療法の基礎から臨床」
成長因子を添加したW-PRP
W-PRPはそれまでのPRP療法より高い効果が認められましたが、患者さま自身の血液を使用するため、高齢の方の効果が減弱する傾向にありました。
また、ほうれい線などの深いシワや肌の凹み、軽いたるみなどの治療が難しかったことから、新たに成長因子の薬剤を添加する手法が開発されました。各クリニックでの治療名称は異なりますが、ひとつの流れとなっています。
他の美容治療との比較
注入による美容治療は他にも、ヒアルロン酸注入、ボトックス注射などがありますが、PRP療法と何が違うのでしょうか。以下にまとめてみました。
ヒアルロン酸注入
PRP療法が自己治癒力によってシワを浅くするのに対し、ヒアルロン酸注入はシワ部分にヒアルロン酸を注入して物理的に“埋める”治療です。
深いシワには同じような効果が期待できますが、目周りの注入はPRP療法の方が圧倒的に優位です。目の周りは皮膚が薄く、粒子の小さなヒアルロン酸を浅い層に入れると、チンダル現象といって水っぽく白浮きした状態になります。いかにも整形したように見た目に影響が出るため、PRP療法の自然な肌の再生のほうが、目周りには適しています。
また効果の持続においても、ヒアルロン酸は半年程度ですが、W-PRPは数年程度持続することが少なくありません。
PRP療法は徐々に効果が現れ、ヒアルロン酸注入は即効的に効果が確認できます。
ボトックス注射
ボトックス注射は、主に表情筋の働きを弱めて、眉間や額にできる表情ジワを取る治療です。例えば、ほうれい線にボトックス注射を行っても何の意味もありません。
PRP治療とは異なる種類のシワを治療するため、お悩みの部位ごとに使い分けるのが良いでしょう。
- Doctor comment
- ドクターコメント
当クリニックでは約10年前からPRP療法を行っています。
その間、症例を多数手がけると共に、PRP療法を広めた川添剛医学博士主催のPRP研究会にも定期的にも参加して、治療レベルの向上に努めています。例えば副作用が出た症例をみて、何故副作用が出たのか、PRP濃度はどれくらいだったのか、逆にどうして副作用が出なかったのかなどを話し合い、今後の治療に活かしています。さらにPRPを濃縮する際の手技のブラッシュアップにも務めています。
PRP療法は、安全で効果が期待できる再生医療です。今までの進化にあぐらをかくことなく、より良い治療のために、今後もPRPの研究と治療を行い続けます。
この記事の監修
SSクリニック 柴田真一 院長
プロフィール
- 経歴
- 平成6年 岡山大学医学部卒業
社会保険中京病院(臼田俊和 部長)
虎の門病院(大原國章 部長)に勤務 - 平成12年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科 助手
- 平成16年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科 講師
- 平成20年 皮ふ科SSクリニック(現在 SSクリニック)開院
- 所属学会・資格
- 日本皮膚科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本皮膚外科学会
- 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
- 日本皮膚外科学会評議員
- 日本アンチエイジング外科美容再生研究会 認定医