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- 眼瞼下垂の手術後を快適に過ごすために。
専門医からのアドバイス
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眼瞼下垂
2020.04.06
まぶたのたるみを手術で除去して、目の開き方を改善すると同時に、二重のラインをつくる眼瞼下垂手術。年間10万人以上の方が手術を受けているといわれていますが、デリケートなまぶたを切開して行う術式が主流であるため、手術を受けるのが怖い・術後が心配、といったお声がよく聞かれます。
そこでこのコラムでは、眼瞼下垂の手術時の痛みや、術後のリスクについて、そして術後にどのようにすれば快適に過ごせるかを解説します。
眼瞼下垂の手術を受けたいと思われている方は、参考になさってください。
眼瞼下垂の手術について
眼瞼下垂とは、生まれつき、あるいは後天的(加齢や長年にわたるコンタクトレンズの使用など)な原因で、目を開ける筋肉の動きが弱く、目を開けているときも上まぶたが眼球に覆い被さっている状態のことを指します。軽度〜重度までまぶたの下がり具合によって診断されますが、視野が半分以上欠けてしまうと手術の適応となります。
眼瞼下垂の原因は、上まぶたのなかにある眼を開くための筋肉につながる腱膜が伸びたり、まぶたの先にある瞼板と腱膜がはずれてしまうことによって起こります。筋肉の動きが上手く伝わらず、まぶたを持ち上げることができないため、目を開けていてもまぶたが下がった状態になってしまいます。
眼瞼下垂の手術は、上まぶたを切り開いて、中にある腱膜を縫い縮め、瞼板に固定する手術が主流です。当クリニックでは、眼窩角膜と挙筋腱膜を一体として、瞼板を正しい位置に固定する術式を採用しています。
その後、切り開いた部分を医療用の糸で縫って終了します。
最近では、上まぶたの裏側を切開して糸で留める、いわゆる「切らない」手術が人気を集めています。
この方法では、皮膚のたるみや余分な脂肪などが切除できず、二重まぶたをしっかりつくることが難しい場合があります。そのため重度の眼瞼下垂の方には不向きです。また術後に糸が取れてしまうケースや、眼がゴロゴロするなどのトラブルも報告されています。
手術中の痛みについては、局所麻酔を使用するため、あまり心配はありません。あえて言えば、麻酔を注射する際のチクリとした痛みはあります。
手術直後のダウンタイムについて
手術後に、傷が回復するまでのダウンタイムがありますが、この時期に気を付けることをお伝えします。
痛みについて
手術後の痛みについては、痛み止め薬の服用と、クーリング(冷却)がとても有効です。
痛みは、手術当日と翌日の2日間程度で収まります。当クリニックでは、痛み止め薬として、消炎鎮痛剤(ロキソプロフェン)を処方します。
クーリングを行うと、術後の腫れやほてりが緩和されます。当クリニックでは、手術後に15分ぐらいクーリングを行い、帰宅後も保冷剤で冷やすようにお願いしています。
腫れについて
術後のダウンタイムでは、患者さまは、痛みより腫れを気にされる方が多いようです。
当クリニックでは、腫れを取る効果が期待できる漢方薬を処方しています。一週間服用することで、術後の腫れの抑制を図ります。
傷について
抜糸までは、傷部分は強くこすらないようにしてください。
手術の翌日の夜からシャワー浴が可能ですので、必ず傷口を洗ってください。指で触ると痛みがあるかと思いますので、シャワーを優しく患部にあてましょう。傷はもう塞がっていますので、安心して洗浄してください。
これは、傷口を清潔にして化膿しないようにする目的と、血液循環を高めて治癒効果を早める目的で行います。
抜糸について
抜糸は手術一週間後ぐらいに行います。日にちが1日程度前後しても問題ありません。
抜糸前後に気を付けることとしては、まず傷口をお風呂やシャワー時に洗って、清潔にしておいてください。
当クリニックでは、抗生剤の入った眼軟膏を処方しています。抜糸まではこちらを毎日塗っていただきます。
抜糸までは、目をぶつけないように注意して生活してください。
術後翌日までは、安静に過ごすことが大切です。
手術部位がひどく腫れた場合は、必ずクリニックに連絡して来院するようにしましょう。
当クリニックでは、眼瞼下垂は日帰りの手術となりますが、手術の翌日に患者さまに来院してもらうか、通院が難しい場合はお電話で様子を尋ねるようにしています。
日常生活の過ごし方
手術を行い、約一週間後の抜糸時には傷の表面は塞がります。ですが、中の組織が癒えるには1ヵ月程度かかると考えられています。そのため、この間の生活で注意して欲しいことをお伝えします。
外出について
手術の翌日から日常生活は送れますが、術後は目の腫れによって、人目が気になると思います。そんな時はサングラスをかけて、お買い物などにお出かけください。
運動について
激しい運動は、術後血腫のリスクを高めるため、一週間は避けるようにしてください。
眼瞼下垂の手術後で一番怖いのは、この術後血腫と呼ばれる出血です。とても低い確率※ではありますが、手術後にまぶたに血が溜まりすぎると、目の奥の視神経を圧迫して失明のリスクがあります。
水泳などの強めの運動は、抜糸後から行うようにしましょう。
※これまで当クリニックで術後血腫が起こった例は一例もありません。
飲酒について
お酒を飲むとむくんでしまうため、抜糸までは飲酒は控えてください。
コンタクトレンス使用について
コンタクトレンズは1ヵ月使用を中止してください。
理由としては、コンタクトを入れる際に瞼を指で持ち上げるためです。切開した組織が完全に癒着するまでの間に、まぶたに力が加わると、仕上がりに影響が出る場合があります。
二重は癒着でつくるものですが、指で押したことによって二重の線が薄くなったり、二重の線が広がったりして、ラインがきれいに仕上がらない可能性があります。
眼瞼下垂手術のリスクについて
ここでは、眼瞼下垂の手術後に起こりやすいリスクとその対処法について説明します。
ドライアイ
術後のリスクとして一番起こりやすいのはドライアイです。
理由は2つあります。ひとつは、まぶたの開きが改善されて、以前より大きく目が開くために、乾燥しやすくなるためです。
もうひとつは、睡眠時のまぶたの開きです。眼瞼下垂の方は、術後の就寝時に少し目が開いてしまい、薄目になっていることが多いため、寝ているうちに乾いてしまいます。この状態は1ヵ月ぐらいで治まります。
日中はこまめに目薬をさすようにしましょう。
涙目
目が開きやすくなって、まぶしいと感じる方もいらっしゃいます。そういった方は涙目になりやすいので、サングラスなどで光の強さをコントロールしてください。
乱視の方の一時的な視力への影響
よく「術後に視力低下は起こりますか?」と聞かれますが、この可能性はほとんどありません。
術後に涙液の量とまばたきが変化することでそう感じたり、ドライアイが原因で角膜に病気や損傷が起こってしまい、視力が低下したように感じる場合があります。
ただし乱視が酷い人は、一時的に手元が見えにくくなるケースがあります。これは、「角膜乱視(角膜が正円ではなく、ラグビーボールのような形で縦になったり横になったりしている状態)」の人が、手術後に角膜乱視のひずみが変化することで起こりやすくなります。また、術後にまぶたの筋肉などが緊張したり、傷のひきつれが原因でまぶたの圧力が上昇することでも起こります。この状態は一時的に見えにくくなるというだけで、視力低下ではありません。半年〜1年程度で回復します。全ての乱視の方がそうなるわけではなく、中には乱視が改善した例もあります。
二重の左右差
眼瞼下垂の手術は、同時に二重になる手術でもあるため、ほとんどの方が仕上がりを気にされます。
二重の幅などの審美的なポイントについては、事前に医師としっかりとイメージを共有しましょう。美容外科などの自由診療のクリニックでは術前に、ブジーと呼ばれる細い針金のような器具で実際の二重をつくりながら、シミュレーションが行えます。保険診療は、機能の回復が目的であるため、仕上がりの美しさはあまり重要視されていません。
次に、右目と左目の二重が異なる、左右差が出ることがあります。これは、医師が正確に左右同じように切開しても、もとものとまぶたの左右差が出てしまうからです。ほとんどが微妙なものですが、どうしても目立つ場合は再手術を行います。
- Doctor comment
- ドクターコメント
眼瞼下垂の手術は、後遺症が少ない、比較的安全な術式で治療が可能です。
患者さまが不安に思うリスクやダウンタイムも、上記で挙げたようなことに気を付けていただくと、快適に過ごすことができます。当クリニックでは、術後に必要な処方薬セット(痛み止め、漢方薬、眼軟膏、ヒアルロン酸を配合した目薬)を処方しています。見た目に関しては、1ヵ月後くらいにはある程度腫れも治まり、スッキリするでしょう。
目の開きやすさは、個人差がありますが、術後すぐに感じる方もいますし、大きな腫れが治まる抜糸時には、ほとんどの方が実感していただけます。
ちなみに修正を行う再手術では、症状が落ち着くまで半年くらいかかることがあります。この間は、医者を信用してもらうしかありません。
眼瞼手術を受ける際は、きちんと意思疎通のできる医者と、アフターケアをしっかり行っているクリニックを選んでください。
この記事の監修
SSクリニック 柴田真一 院長
プロフィール
- 経歴
- 平成6年 岡山大学医学部卒業
社会保険中京病院(臼田俊和 部長)
虎の門病院(大原國章 部長)に勤務 - 平成12年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科 助手
- 平成16年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科 講師
- 平成20年 皮ふ科SSクリニック(現在 SSクリニック)開院
- 所属学会・資格
- 日本皮膚科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本皮膚外科学会
- 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
- 日本皮膚外科学会評議員
- 日本アンチエイジング外科美容再生研究会 認定医